コーヒーと頭痛

 

１日に何杯もコーヒーを飲んでいる。そういうコーヒー好きな人は多いのではないか。以前、家ではコーヒーメーカーでドリップしていた。ふんわりと香りが漂ってきて、だんだんと密度が高まり部屋いっぱいにみたされる。そういう時間の経過も好きだった。

朝はもちろん、１日が終わる夜だって飲んだ。寝る前に飲んでも、ゆったりとした気分でぐっすりと寝られる。カフェインで寝れなくなる、寝つきが悪くなる心配はまったくなかった。

友達が来るとたいていドリップコーヒーを淹れた。「砂糖、ミルクはいる？」と一応は聞くがまず「ブラック」と返ってくる。それでいい。「まぁ、家には砂糖もミルクもないけど」。それを言うと友達は笑う。私はブラックでしか飲まないから、コーヒー用のグラニュー糖はないし、コーヒーフレッシュもない。当時は牛乳も飲まなかったから、コーヒー牛乳もできなかった。

それほど愛用していたコーヒーメーカーだったのに、ある時あっさりと捨ててしまった。それ自体は安物で千円、二千円くらいのものだった。いつのことだったろうか、あれは会社勤めをしていた時だから6年ほど前だ。

私はめったに体調を崩さないし風邪もひかない。だいたい3、4年にいっぺんくらい、熱を出して体調を崩す。ついにその日がやってきた。風邪をひいてしまってしばらく安静にしていた。食欲はなく、あれほど好きだったコーヒーは飲む気がしない。あの匂いも嗅ぎたくない。数日まったく飲まない日が続いた。今まで長い間かかさず飲んでいたのに。

病院へ行くため自転車に乗った。歩道のちょっとした段差で、今まで体験したことない頭痛がおきた。頭が割れそうになるほどはげしい痛みだった。あまりの痛さに驚いた。また歩道の段差があり、警戒してソロリと走らせるが、また激しい頭痛におそわれた。いったいなにがおこったのだろう。

病院の用事をおえ家に帰り調べてみると、「カフェイン離脱症状」らしい。長期にわたってコーヒー（カフェイン）をとっていた人が、突然飲むのをやめると24時間以内に頭痛が起きる。今までコーヒーなしではいられないと思ったけど、もう飲みたいと思わない。これから一生コーヒーを飲むことはないだろう。少し悩んだが、決心した。コーヒーメーカーをゴミ袋にいれ捨ててしまった。

会社の同僚たちはコーヒー好きな人たちばかりで、休憩時間には、それぞれ好みのドリップコーヒーをいれて飲んでいた。病み上がりの身だったし、ひきつづき体が受け付けない。飲む気がしないし、飲みたいと思わない。みんながコーヒーを飲むなか、ひとりだけ白湯にして飲んだ。じんわりと体にしみわたり、かすかな甘みも感じられる。白湯っていいもんだなとしみじみ思った。それから何ヶ月経ったろうか。あれほど飲まないと決心したコーヒーだったが、またぼちぼちと飲むようになった。

コーヒーメーカーはあの時から持っていない。今は気楽にインスタントコーヒーを飲んでいる。たまに気分をかえて、一パックづつのドリップコーヒーを楽しむこともある。コーヒーメーカーには興味があるし、豆からひいてドリップしてみたい憧れもある。しかし久しぶりにあの時のことを思い出して「飲み過ぎには気をつけたほうがいいな」とも思っている。