隣人

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一人暮らし歴は20年以上、そのあいだ引越しは7回した。それなのに隣人はどんな人か知らない。引越しの挨拶はしなかったし、されたことも今まで一度もなかった。都会の一人暮らしは物騒だし、とくに女性の場合はトラブルになる恐れがある。だから隣の人とは知り合いにはならず、ひっそりと暮らす。人によっては何かあった時に助けてもらうため、挨拶はかかせないと思う人もいるだろうけど、都会では何かと面倒なことになる心配がある。

さまざまな人間がいて、それぞれに生活リズムがちがう。万が一、隣で出入りする音が聞こえたら、少しタイミングをずらしてドアを開ける。見知らぬ者同士は会うと気まずいから、なるべく会わないようにする。お互いそう思っていると思う。

 

アパートやマンションは隣同士がピタリとくっついてる。隣人とは避けて暮らすが、迷惑かけないように騒音問題には気をつける。当時はアパートの2階に住んでいて、自分では気をつけていたつもりだった。

ある時、下の住民からピンポンがきた。私より年上であろうメガネをかけた男性だった。「戸を閉める音が聞こえる。話し声も聞こえる」と。間取りは1Kで、キッチンとワンルームの間に引き戸があり、その戸の音のことだった。いきおいよく閉めたこともないし、ふつうに閉めていた。苦情がきたからにはもっと気をつけたほうがいいだろうと、戸に貼るクッション材を買ってきて貼った。これで大丈夫だろう。

たまに友達が遊びにきていたので、話し声が聞こえたのだろう。大声で話したこともないし、騒いだこともない。私は声量が小さいほうだし、ハキハキとした声ではない。

その後、また男性から苦情がきた。「まだ聞こえる」と。もともとうるさくしている覚えはないし、さらに気をつけていたのに。ある日また友達がきて話をしていると、下からドンドン!と叩く音が聞こえた。私もつい頭にきてしまって、反射的に叩き返してしまった。その後その男性は引越ししてしまった。

 

会社の独身寮に住んだ時もあった。そのアパートは会社の人だけでなく、一般の人も住んでいた。会社の同僚が住んでいるとプライベートが干渉されるのではと思い、住む気はなかった。

しかし家賃は1ヶ月5000円でとても安い。もう、破格といってもいいだろう。それに会社に近くて便利だ。当時住んでいるアパートは駅に近くて便利だと思っていたが、そもそも出不精だから電車で外出することがほとんどない。じゃあ、別に駅に近くなくてもいいだろう。圧倒的に会社に行くほうが多いんだから。

家賃が安いのにつられて、思い切って独身寮へ引っ越すことにした。引越しは独身寮に住む同僚が車をだして手伝ってくれたので助かった。

独身寮に住む4、5人の同僚とたまに飲み会をすることがあった。それはそれで楽しかった。ふだんの日は突然部屋を訪ねてくるとかはないし、プライベートを乱されることはなかった。そのうち飲み会もなくなり、みんなの行き来はなくなった。会社でもそれぞれ仕事の持ち場がちがうから、会社で顔をあわせることもない。結局、独身寮も一般のアパートと同じほとんど見知らぬ隣人たちとなった。