しずかな雨の日

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アスファルトを走る車の、ざーっという音で目覚めた。今日は雨の日。ちょっとひさしぶりの雨だった。直前まで夢を見ていた。はっきりと覚えている。過去の人なのに夢のなかでは現在進行系でものごとがすすんでいる。なんの違和感もない。夢から覚めて、あっと思う。夢うつつから起き出すにはまだ体がついていかない。もそもそと体を動かして起きる。休日の朝でも、ゆっくりと寝ていることはない。もっと寝ていたいけど、まずはやることやってから昼寝をすればよいと言い聞かせ起きる。けっきょく昼寝はしない。いつもそうだ。

まだ雨は降っている。しとしと小さな雨粒がしずかに降っている。天気予報を見ると日中はずっと雨のようだ。空気清浄機をつけると少し湿度が高い。ほこりがたたない。雨のおかげだ。やわらかくくぐもっている光が部屋のなかにとどまっている。

 

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雨の日にふと思い出す。小学生のころだ。教室のなかにいる。目の前は濃いみどりの黒板だ。白やピンク、青や黄色のちびたチョークが粉にまみれている。教だんには誰もいない。先生はまだ現れていない。人数分の机といすは40ほどならび、大きなガラスの窓辺には白いカーテンがかかっている。かくれんぼしてもすぐに見つかってしまうカーテンだ。うっすらとうすいしみがついている。

晴れている日は元気よく走り回る子供たちも、雨の日はすこしおとなしい。灰色の雲がもくもくとしていて空一面にひろがっている。太陽はおやすみして、やわらかい光はぼんやりとしている。窓の外の校庭に雨が降りそそぐ。校庭の土はどんどん色濃くなり、音もなく雨を吸収していく。子供たちは外で遊べない。いつもは校庭を駆けている子供たちは、今は誰もいない。それでいい。ちょっとけだるい空気感。みんないつもより静かだ。ずっと静かだったらいいのに。

雨が降っていて教室のなかが暗くなると、天井の人工的な蛍光灯でピカッと照らされる。日中に蛍光灯がついているのはあまり好まない。外がザーザー降りの雨で雷でも鳴っていれば、それでもよい。蛍光灯をつけないても大丈夫なくらいの、ほのかな明るさと暗さがいい。グレーの世界、あいまいな世界、みんなの元気がオブラートに包まれる。こんな子供のころの記憶なのに、あの時の空気感はなんども思い出す。 

しずかな雨の日とぼんやりとした夢のなかは、すこし似ているような気がする。まどろみながら起きたら雨だった。まだ夢のつづきなのかな。今日はまだ雨がふっている。