影とジョギング

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冬眠から目覚めて、2月から週一回ジョギングをしている。2月はまだ寒く長袖Tシャツのうえにジャケットと薄手の手袋が必要だった。先週からは春めいた陽気になってジャケットもいらず走りやすくなった。

いつもの大きな公園までの道のり。途中たくさんのマンションが立ち並ぶエリアには桜並木がつづき、すっかり満開になりかけ、はやくも花びらがひらりひらりと舞い落ちている。そこを抜けて遊歩道を横切るとすぐに公園が見えてくる。整備された一周2キロの周回コースがあり、ジョギングをするには最適の場所だ。中央は広く緑の芝生が敷きつめられていて、少年サッカーや野球、運動する人、犬を連れている人、さまざまだ。周回コースは散歩やジョギングする人がちらほらいるが、決して混雑はしないので快適だ。この公園はいろんな木や草花が植えてあり桜も育っている。やはりここでも桜の花びらがひらりひらりと舞い落ちていた。

いつも通り無理せずマイペースで走る。もちろん無理をしたいと思わないし無理もできない。誰かと競っているわけではない。あえて競うなら自分自身、昨日より今日の自分。目の前には自分の影が色濃くクッキリとうつってる。腕を振り、風に髪をなびかせ、私と同じ速度で一緒に走っている。地面には桜の花びらが落ちている。白く小さく儚げだ。しかしそれが美しく思える。また今年もこの季節がやってきた。季節が巡っている。私は時間の経過に身を委ねている。少しでも体づくりのためにこうやって走っている。

しばらくすると自分の影がなくなった。「次はあなたの番だよ」と言って私の後ろにまわった。太陽の光を全身に浴びバトンタッチした。目の前の光るアスファルトに向け足を繰り出し走る。決して速い速度ではないが、それでも走り続けていると汗がじわりと出てくる。公園のトイレに入りうがいをする。また周回コースをまわり、影が前に出て私を先導する。季節はうつろい、私もうつろい、最後は影を道連れにして桜の花びらのように散るのだ。

 

死ぬときに後悔すること25 (新潮文庫)

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  • 作者:大津 秀一
  • 発売日: 2013/09/28
  • メディア: 文庫