コーヒーミルを買った

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ついにコーヒーミルを買ってしまった。ブラックコーヒーが飲めるようになったのは高校生のとき。それから何十年経ったことだろう。美術の先生のおかげでブラックコーヒーのおいしさを知った。実家ではコーヒーを飲む習慣があって、手軽に飲めるインスタントコーヒーはもちろん、レギュラーコーヒーもドリップしてよく飲んでいた。一人暮らしでもコーヒーはかかせない存在だった。友達が来たらまずは挨拶がわりにコーヒーをいれた。会社では大きい袋のレギュラーコーヒーと一人分のドリッパーを持参した。コーヒーの残り香を給湯室に漂わせ、自分のデスクにもどった。

 

コーヒーミルでゴリゴリと豆をひく挽きたてのコーヒー。頭の片隅でなんどもあこがれていたけれど、コーヒーは嗜好品だしこだわりだしたらきりがない。「そこまで本格的にやらなくてもいいかな」なんて考えたりして。夜空に散らばるちいさな星のような金平糖、カタチを崩すのがもったいない端正で甘美なケーキ。童話のようなパステルカラーのアイシングクッキー。見ているだけで夢見心地で楽しい。もらったらとてもうれしいけど、自分で買うのはためらうようなもの。あってもいいけどなくても困らない。それと同じように、私とはちがう世界に住んでいるキラメクモノのように感じていた。

 

また最近コーヒーミルが気になる。するといつも行っている近くのスーパーにも売っているじゃないか。家に帰って口コミを調べてみると評判がいい。見た目はクリアなボディでスタイリッシュの手挽きミル。電動は楽だろうけど、やはりここは手挽きで。2杯用でコンパクトだからじゃまにならない。粉の荒さも調節できる。木製のボディも味わいがあって気になったけど、分解して丸洗いできるできるコレに決めた。

 

隣駅にコーヒー豆の専門店があり、通りかかるたびに気になっていた。事前にしらべてみたら、生豆を注文してからその場で焙煎するという。それはすごい。品質にかなりこだわっている。コーヒーミルを買ったことだしさっそく買いにいく。お店にはたくさんの種類の生豆があり、コーヒーのよい匂いが漂っていた。すこし年配の女店主は笑顔で感じよくむかえてくれた。豆はどれがよいのかわからないが、まずはそのお店のブレンドにしようと決めていた。一応、店主に「はじめてなんですけど」と言いおすすめを聞いてみると、やはりブレンドをすすめられた。ブレンドは人気で毎日売れるようで、アルミの袋にパックされたその日焙煎したての豆が目の前にあった。200gで900円だった。その場で焙煎したてを見るのが楽しみだったけど、それはまた次回のお楽しみにしよう。

 

コーヒーミルで豆を挽く。ついにこの日がやってきた。今までやったときないのに、先にお湯を沸かしコップを温めておく気の使いよう。コーヒー豆の袋をあけると香ばしいコーヒーで満たされうっとりとする。コーヒーミルに一人分の豆をいれゴリゴリとひく。おっ、豆の抵抗をかんじるからそれなりに力も必要だ。「挽くのは女の人では大変」という口コミもあったが個人差だろう。これくらいなんてことないし、すこしだけ腕も鍛えられそうだし、いいんじゃないか。手挽きだから時間はかかるけど、こうやってちまちまとコーヒーを世話してやっている時間が楽しい。手間がかかるほどおいしくなる気がする。挽きおわったのでお湯でドリップしよう。おっ、コーヒーがふくらむ。豆が新鮮な証拠だ。ちたちたとすこしづつコップに満たされていく。ちたちたと時間はすぎていく。部屋いっぱいに香りも満たされていく。

 

ひと呼吸おいて、すっと味わう。おどろいた。クリアで雑味がない。すうっとのどにはいっていく。コーヒーなのに最後の一滴まで透きとおった味。これが新鮮なコーヒー豆と手挽きコーヒーミルの相乗効果なのか。いろんなコーヒー豆を試してみたい。あれこれ考えているのも楽しい。手挽きコーヒーミルはあってもなくても困らない。けれども日々の生活にうるおいと楽しさを与えてくれるのはたしかだ。今も昼食後にコーヒーを挽き、これを書きながら飲んでいる。あたたかな日差しの昼下がり。