人の顔が覚えられない

f:id:m-kite:20200403152549j:plain

向こうから人がやってくる。チラッと見るけどあまり見ない。すれちがう時はじろじろと顔を見ない。目があったらこわいし、って臆病者か。人が多くてすれちがうとき、服装が中性的で男か女かわからないこともある。あれ、どっちだったんだろう?

おまわりさんに「今すれちがった人、どんな人でしたか、年は、格好は?」なんて聞かれたら何も答えられない。どうしよう。

 

一時期、お気に入りの欧風カレー屋さんがあって通っていた。オーナーのおばさんは人の顔を一度見たら忘れないという。外で買い物していると「あ、あの人」ってすぐに気づきイヤになっちゃうと。店の中ならいいけど、プライベートでもそうなら気が休まらないだろうなぁ。

ほかのカフェのオーナーのおばさんも、やっぱりそう。数ヶ月経ってからよく話すようになったのだけど、「はじめて来た時、あそこの席に座っていたよね?」と言われた。当たっている。人の顔を覚えられない私にとってはすごいなと思ってしまう。接客業なら当たり前なんだろうけど。

 

3ヶ月間の職業訓練の学校に通っていたことがある。1クラス30人だった。そのうちの一人は開始数日で来なくなった。その日は雨だった。翌日は来たけど「雨が降っていて心がくじけた」と言い、その後学校を辞めた。まぁ雨のことは冗談だろうけど、自分が興味ないことを1日勉強するのはつらい。私もそう感じていたからよくわかる。実際に授業を受けてみないとわからないこともある。

その後もう1人辞め、結局28人になった。同じ教室で過ごしているのだから全員の顔を覚えるかというと、それはない。まるで覚えられない。卒業するとき知らない人がたくさんいた。もちろん席が隣同士とか前の人なら覚える。話もしたことがない、少ししか話したことがない人は全く覚えない。人のことを見ないからだ。

メガネをかけている、髪の色が派手とか、外見的な特徴で覚えるほうが簡単だ。メガネを外したり髪の色がかわってしまったらもうだめだ。大勢のアイドルグループの顔はみんな同じに見える。

 

その後ハローワークに手続きのために行ったら「あ、〇〇さん」と同じ教室の人であろう人に話しかけられ困ったことがある。誰だっけ?しかしこっちも「ばったり会いましたね」なんて話を合わせる。言葉のはしばしから誰かはわかったけど、これは焦った。

当時の座席表を持っていたから、ひっぱりだして見てみた。授業の時間割もある。ミニマリストなら捨ててしまうだろうが、これが物持ちのよさである。取っておいて、今まさに役に立っている。28人中わかる人は8人だった。あれから3年も経っているしこんなものだろう。卒業して誰とも会っていないのだから、時間の経過とともに記憶もおぼろげになる。

 

以前、趣味つながりの知り合いで、人の目をじっと見て話す女性がいた。話している間ずっと見る。びったりと固定され、かたときも離さない。視線が強い。そりゃもちろん人の目を見ないで話すのは失礼だから、私だって見て話すけど、それも程度があるだろう。その女性と話しているうちに、私もつられてびったりと見て長々と話した。するとその女性は初めてふっと視線を外した。私の視線が強すぎて耐えられなくなったか。目ばっかり見るのは疲れるから、やや上を見て話せばよいと聞くこともある。

 

人の顔が覚えられないなぜか。それは顔をよく見ていないからと気づいた。あるとき「顔をよく見て覚えよう」と意識したことがあって挑戦したことがあるが、効果てきめんだった。顔をよく見れば覚える。今は?元に戻って、やはり人の顔は見ていない。

人の顔を覚えられず、その表情の識別もうまくできない「失顔症」(相貌失認・そうぼうしつにん)という脳障害の病気がある。まさかと思って、ネットでかんたんなテストをやってみたが、大丈夫だった。重度の病気になると、鏡に映った自分の顔もわからなくなるという。これは恐怖だし、日常生活が大変だろう。