ショートカット

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会社ではパソコン仕事をやっていた。アドビ イラストレーター、フォトショップのソフトなどを使う。作業効率化にショートカットは必須だ。

 

ショートカットとは、わざわざ上のメニュー一覧から「えーと……」と、項目を選ぶのではなく、キーボードのキーを2個程度押すこと。一瞬押すだけで作業がおわる。たいていは2つだが、3つ、4つの場合もある。それを多く知っているほど作業ははやくなる。パソコンを使う人は慣れ親しんだショートカットがあるだろう。

 

よく使うフォルダなどは、デスクトップにエイリアスを作っておくと便利だ。フォルダのなかにフォルダ、またさらに……というように、階層が多い場合は、一発で開けるようにこのようにしておく。これも作業効率化だ。

 

長年デザイン会社で仕事をしてきたけど、今まで何社も転職している。はじめての会社では今から17年ほど前なので、macのパソコンの形が古かった。今でこそ、パソコンのモニターはかなりの薄型で洗練されているが、この時代のモニターはブラウン管テレビみたいにかなり分厚く重かった。

 

その会社に新入社員として入社して、先輩にいろいろと教わった。この業界は人の入れ替わりが多い。辞めていく人もいるし、新しく入ってくる人もいる。その先輩も転職のために辞めてしまった。月日が経つにつれ、私はだんだんと仕事をおぼえ、まかされていくようになった。

 

そんなある日、ふたりの女の子のアルバイトが入った。アルバイトだから時給制で千円ほどだった。仕事柄、深夜までの長時間労働となる。その会社では正社員でも残業手当がつかなかった。「ひょっとするとアルバイトのほうが時給がよいのは」と思うような労働時間だった。私は未経験での入社で、額面20万円の給料からはじめた。税金やらなにやら引かれると、まあ少ない。都内でどうにか一人暮らしできるくらいの給料。西向きの日当たりが悪い、狭いワンルームの家賃に6万円払っていた。

 

私が先輩に仕事を教わったのと同じように、今度は私がアルバイトの子に仕事を教える番だ。となりどおしの席で、教えながら仕事をすすめた。この時代のmacはよくフリーズした。フリーズとは文字通り、パソコンが不具合をおこし、画面がかたまってしまって何も操作ができないお手上げ状態のことをいう。強制終了、または再起動、電源を落とすなどしないといけない。「あっ、データは保存してたっけ」なんてあせったりして。懐かしい。もうしばらくフリーズは経験していない。

 

そんなときアルバイトの子のパソコンがフリーズした。こんなときにキーボードを押すだけで操作ができるショートカットが大変便利なのだ。「この4つのキーを同時に押すとよいよ」と、ショートカットキーを教えてあげた。3つ、4つのショートカットは頭の記憶ではなく、キーホードの配列で覚えていたりする。端っこのココとコノ場所、というように。「どのキーか言葉で言え」と言われても答えられないかもしれない。体で覚えているというか。

 

またある日のこと、またもやアルバイトの子のパソコンがフリーズした。その子はひとりでショートカットでチャレンジしているけど、うまくできないようだ。「また教えてください」と言われたので、見てみると、押さえるキーホードの配列がちがう。4つ押さえているけど押さえるところがちがう。「4つを押さえるのはあってるけど、コレじゃなくてコレだよ」と教えてあげた。複雑な入り乱れた指先が面白くて、お互いに顔を見合わせて笑った。

 

その女の子はほどなくして辞めてしまった。もう一人の女の子とは年に一回連絡をとるくらいの、うすい付き合いがある。数年前にその会社へたずねてみたが、仕事ぶりは超プロフェッショナルになっていて、その会社にいなくてはならない重要なポジションになっていた。何事も継続は力なりだ。