四つ葉のクローバーどころではない

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小学生のころ、団地に住んでいた。同じデザインの団地が三、四戸建っていた。たしかそれぞれ四階建だったと思う。

 

団地のまわりには物置と芝生、目の前には田んぼが広がっていて、子供たちの格好の遊び場所になっていた。ひらひらと舞う蝶々をおいかけ捕まえてリンプンを手につけてしまったり、シロツメクサをとって花の冠を作ったり、四つ葉のクローバーがないかと目をこらして探したりした。木登りもした。木の枝をとって戦ったりもした。

 

自分が食べた夏みかんやぶどうのタネを花壇に植えて「芽が生えてこないかな」と毎日わくわくしながら観察していた。こんもりとした茶色い土は最初とおなじで、ついになんの変化もあらわれず、そのまま忘れてしまった。

 

水が張ってある田んぼにはトンボの幼虫のヤゴがいたり、オタマジャクシや血を吸うヒルがいた。ヒルは体長五センチに満たないほどで、鮮やかな緑色に黄色っぽい縦の模様がついていた。うねうね動いて不気味だ。土に穴を掘って「蛇がいっぱいいる」とか言って緑色のヒルをたくさん集めたりした。今考えると、気持ちの悪いことをしていたものだ。気になって調べてみたら「ウマビル」という名前で血を吸わないヒルだった。今までずっと血を吸うものかと思っていた。

 

今でもシロツメクサを見ると「四つ葉のクローバーがないかな」と目をこらして見てしまうが、なぜか見つけることはできない。子供のころとちがってそれほど真剣に探していないからだろうか。

 

団地のまわりはシロツメクサとクローバーの芝生だったから、よく四つ葉のクローバー探しをした。ひとつ四つ葉を見つけると、その近くに生えている可能性が高い。

ある日いつものように四つ葉のクローバー探しをしていたら、とんでもない数のクローバーを見つけた。四つ葉は何枚も見つけることはできたけど、それどころではない。「え、なにこれ」

まわりには、五つ葉、六つ葉、七つ葉、八つ葉、九つの葉……とんでもない数のクローバーが見つかった。最高で九つの葉だったと思う。それが次から次へと出てくるのだ。こんなのはじめてのことで、わたしは興奮してとった。

 

めずしいからうれしい反面、なんだか不気味な気もする。ひとつだけじゃなくて、何枚も何枚もうじゃうじゃと生えているのだ。四つ葉のクローバーは幸福になれると言うが、それ以上の複数葉だと「不吉なことがおこる」だのなんだの、子供同士で言っていたような気がする。

その複数葉たちは家に持って帰ったかは忘れた。不気味がってそのまま放置したような気もする。今になってみると「押し葉」にしてとっておけばよかったと思う。とても貴重なコレクションになっただろうに。それ以来、複数葉どころか四つ葉のクローバーだって見つけたためしはない。

 

 

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