挽きたて珈琲

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コーヒー好きの皆さん、こんにちは。

 

「挽きたてコーヒー」とか「香り高いコーヒー」って言葉に惹かれませんか。 はい、私は無条件で惹かれます。その言葉を見るだけでも、いてもたってもいられず吸い寄せられてしまいそう。コーヒー店やコンビニの前を通り過ぎると、ふわっとドリップコーヒーの香りが漂ってくる。この香りもたまらない。実際にコーヒーの香りにはリラックス効果がある。気持ちは吸い寄せられてしまうけど、その度にお店に入るわけではない。「あぁいいなぁ」と通り過ぎる。

 

新鮮なコーヒー豆をゴリゴリとかガーッと挽いて(手動でも電動でもいい)、口の細い銀色のコーヒーポットですこしづつお湯をそそぐ。ふんわりと湯気がたちのぼり、コーヒーの香りが鼻孔をくすぐる。午後のちょっと気だるい気分が潮の満ち引きのようにすうっと消えていった。コーヒーの香りだけで機嫌がよくなるなんて安いものだ。(あ、家にはコーヒー豆もコーヒーポットもありません)。

 

自然に笑みがうかんだ私は顔をあげ、窓の外を眺めた。初夏の陽気に照らされた家の屋根が反射して眩しげだ。パソコンばかり見ていた目にしみる。赤茶色、土色、暗い茶色、晴れやかな青、紫がかったくすんだ青、淡い草原のようなグリーン。屋根の色はこんなにあったのか。壁の色は、それぞれの屋根に調和した色合いになっている。

あれ、いつのまにかあそこが空き地になっている。以前は何が建っていたのだろう。記憶にない。まったく今まで何を見ていたのだろう。真っ黒なカラスが一羽、さぁっと風にのって一直線によこぎりマンションの屋上のアンテナに止まった。指定席だろうか。夕方にはまだ早すぎるし、寝床に帰る時間ではない。今晩の献立でも考えているのだろうか。

 

景色を眺めているうちに、部屋の中はコーヒーの香りで満ちていた。淹れたてを一口飲む。部屋のなかには自分だけ。コーヒーは熱くて苦い。子供のころは苦いから飲めなかった。

 

コーヒーは日によって、妙においしい時がある。その絶妙な熱さがおいしい、というか。同じ銘柄、同じ分量でいれているのに不思議だ。なんでだろう。

 

たまに通っていた自宅系カフェ。ランチを食べるとコーヒーと小さな寒天ゼリーがセットで200円で、とても安い。コーヒー好きだからもちろん注文をする。注文してからコーヒーを機械で挽く、ガーッという音が聞こえてきた。「あ、挽きたてなんだ」挽きたてだととても嬉しくなる。ほどなくして、コーヒーと寒天ゼリーのセットがきた。手作りのつるんとしたスモモ寒天ゼリーの甘酸っぱさがたまらない。

 

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コーヒーの器は、年配の女性店主の手作りで味わい深い佇まい。普通のコーヒーカップより大ぶりで、コーヒーの量は普通の1.5倍近くはありそうなたっぷりとした量。肝心の味だが、これが妙においしいのだ。

かなり久しぶりに来店して飲んだ時はそのおいしさに驚いた。食事は素材をいかした素朴なごはんで身も心もよろこぶおいしさ。きっとコーヒーにもこだわりがあるんだろう。満足した私は帰りに店主に話しかけてみた。

 

「食事はもちろんですが、コーヒーとってもおいしいですね」。

「あら、そう」うれしそうに店主は言った。「実は私、コーヒーが苦手で飲めないのよ」。

 

コーヒー好きかどうかでおいしさは決まるものではなかった。

 

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