ウイスキー

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「お酒は二十歳になってから」というが、はじめて飲んだのはいつのことだったか。いつかははっきりと覚えている。もう時効だから言うけど二十歳前から飲んでいた。そういう人は多いんじゃないか。飲んだと言っても、味がわかるわけではない。苦いしおいしくないし、はっきり言ってマズイ。「うまい」と言っている大人の気持ちがわからない。体はふらふらしてくるし、それ以上いくと気持ち悪くなってくる。しかしそのころは、少しだけ酔った「ほろ酔い状態」が一番楽しかった。

 

酒を飲めると大人になった感じで格好いいと思っていた。そのとき80年代洋楽ロックバンドに熱中していた。ガンズ・アンド・ローゼズモトリー・クルースキッドロウ、などなど。彼らはきまってウイスキーの酒瓶片手にラッパ飲みをしている。ホテルからテレビを投げつける。なんて豪快、無法者、警察御用、危険な香り。私とは住む世界がまるでちがう。しかしそこにシビれるあこがれる。まさに「中二病」まんまのお年頃だった。

 

ガンズのデビューアルバム「アペタイト・フォー・ディストラクション」はもう何百回と聴いた。聴いてから30年も経つけど、今聴いても血が騒ぐ。なんど聴いてもいい。私の中の名盤、ナンバーワンに輝くだろう。そのギタリスト、シルクハットとサングラスがトレードマークのスラッシュは、いつも「ジャックダニエル」のウイスキーをラッパ飲みしている。スラッシュのファンなので当然「ジャックダニエル」に興味がわく。

 

すると私と同じロックファンの女友達が「ジャックダニエルを手に入れた」というではないか。これはぜひ飲まねばなるまい。さっそく友達の家に行く。はじめてみる本物のジャックダニエルとご対面。「おおー、スラッシュが飲んでいたのと同じだ」と感動した。怪しく光る琥珀色の美しい液体、英語で書かれたブラックラベルが格好いい。危険な世界への入り口、無法者、警察御用……。匂いをかいでみる。うわー匂いだけで酔っ払ってしまうよ。そんな人のために当時は「ウイスキーのコーラ割り、通称コークハイ」が流行っていた。お子様にはぴったりの飲み物だ。

 

危険な香りのウイスキーでもコーラで割ってしまうと、とたんにカジュアルな飲み物になる。ウイスキーの分量によってもちがうが、なかなかおいしく飲めてしまう。スラッシュも驚くだろう。しかし割って飲んでもウイスキーの匂いと味は強烈だ(だったらただのコーラにすればいいのに)。

 

当時の洋楽を紹介する番組、司会は小林克也の「ベストヒット USA」をよく見ていた。番組は終了し再開し、今でも放送されているのには驚きだ。その「ベストヒット USA」でミュージックビデオを見ながら「ウイスキーのコーラ割り」を飲むのが定番だった。飲みながら、バンドにあわせて一緒に歌った。バンドとの一体感、高揚感、親にかくれてウイスキー飲む後ろめたさ、テンションMAX、今夜は最高だ。昼間だけど。

  

友達はスキッドロウの大ファンだった。なかでもボーカルのセバスチャン・バックに惚れ込んでいた。身長190cm以上のすらりとした長身、超絶イケメンの美形、ストレートロングの金髪。当時は熱狂的なファンが多かった。知らない人は検索して見てほしい。今どうなっているのか気になってWikipediaで調べたら、ただいま52歳、やはり年相応で少し肥えていた。

 

ウイスキーのコーラ割り」を覚えてからは、そうやって友達と集まって飲む機会が何度かあった。ある時めずらしく飲みすぎてしまって、とても気持ち悪くなってしまった。家に帰ってすぐ寝たが、あくる日の朝にはじめて二日酔いになってしまった。気持ち悪くて朝ごはんなんてまったく食べたくない。しかし食べないと母に怒られると思って、いつもどおり食べた。学校へ行く途中、自動販売機に「コカコーラ」が売っているのが目にはいった。それを見るだけで吐き気をもよおした。しばらくその自動販売機から目をそむけて通学する日々がつづいた。

 

今でもウイスキーは匂いだけで酔ってしまいそうで苦手だ。それと同時に、ロックバンドのビデオを見ながら飲んだ「ウイスキーのコーラ割り」のことを思い出す。

 

 

Appetite For Destruction [Explicit]

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  • 発売日: 2014/01/31
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