工場の扇風機

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8月11日の東京では最高気温37度、自分の体温より高いじゃないの。連日35度くらいの真夏日になっている。ベランダに出て洗濯物干すだけでジワリと汗かくし、少しでも外出しようものなら、もう汗でじっとり。クーラーがある部屋のなかじゃないと生きていけない。

 

それで思い出した。美術の短期大学を卒業してからは、自動車の部品を作る工場に就職した。美術はなにも関係ない。家から近い場所にあって、そこに8年ほども務めていた。その時の記事はこちら「工場勤務と缶コーヒー 」。

 

その工場はかなり大きい。現場仕事は溶接や組み立て作業、フォークリフトは何台も走っている。フォークリフトは外からのトラックの積荷を工場内へ運ぶので、出入口は常に開けっ放しのまま。大きいトラックも入ってきて、資材など玉掛け(クレーンで積み下ろし)して工場内へおろす。

 

なので工場内は外気と同じ気温なのだ。エアコンなんてものはない。休憩所にはあるが、現場にはない。夏はクーラーの変わりにとても大きい扇風機がある。羽は直径50センチくらいはあるだろうか。外気と同じ気温なのに扇風機を回すとどうなるか。もうね、熱風がくるんだよ、熱風が。熱風をくらいながら溶接仕事をする。溶接は自分でやるわけではなく、機械で自動でやってくれる。定位置に部品をセットする仕事だ。

 

ちょっと時間があるときに手動の溶接をやらしてもらったことがあるが、これがとても難しい。自分のさじ加減で手を動かすから、なかなかまっすぐに溶接できない。ミミズみたいにうにょうにょと曲がってしまう。うまくなるのは熟練の技が必要だ。目と顔を守るために、金属製の「面」が必要だ。皮の手袋をする。とうぜん長袖長ズボンに安全靴。真夏もこの格好なので暑い、なんてものではない。

 

対して機械仕掛けの私の格好は、「面」以外は装着する。あ、夏は半袖になるけど、溶接の火花や火の粉が飛んできたりするので、腕にアームカバーを装着する。長袖より少しはましだろうが、やはり暑い。じっとりと汗をかいている。

 

安全靴ははきごごちが硬く、はじめのころは足の裏によく魚の目ができた。突き刺すような痛みなので、魚の目をとる薬付きの絆創膏のようなものを貼って治した。何年か経ってソフトなはきごごちの安全靴に変わってからは、その心配がなくなり快適になった。

ある日いつものように仕事をしていたら、溶接の火花で飛んできた数ミリ程度の金属の塊が、ぽろっと安全靴のなかに入ってしまった。飛び上がるほどの熱い激痛に、すぐに安全靴をぬいで叩き出した。完全に火傷してしまった。その火傷あとは未だにあるので、もう一生治らない。今、靴下をぬいでまじまじと見てしまった。

 

午前中の5分休憩、昼休み、15時の10分休憩は貴重だった。クーラーが効いていている部屋で休憩できる。つめたい飲み物を飲む。このときばかりは夏と溶接のダブルの暑さから生きかえった。つかのまの休憩が終わると仕事場に戻り、扇風機のうだるような熱風をあびながらまた仕事をはじめるのだった。